2012/02/28のLouder Than Warでのインタビューです。
インタビュアーはI
ウェラーはP
I:こんな言葉はあまり使いたくないんですが、ニューアルバムは”サイケデリック”な 要素が感じられると思います。
P:サイケデリックからはとても大きな影響を受けたよ。 ただし、それはこのアルバムが古臭いというわけじゃない。 昔のサイケデリックの寄せ集めじゃなくモダンなサイケデリックミュージックを 作ろうとしていたんだ。モダンサイケを作ることが今必要だと思ったんだよ。
I:他にも、そういったモダンサイケなサウンドをやる人たちはいますよね。 Amorphous Androgynousとか、彼らとコラボしているノエル・ギャラガーの 次のアルバムなんかもそうだと言われています。 ”モダンサイケ”ムーブメントが起きているような気がします。
P:それは間違いないだろう。俺たちのバンドのサウンドは彼らとは違うけどな。 他にもそういったサイケ系で俺が好きなバンドがある。
Tame Impalatっていうオーストラリアのバンド。サイケデリックなことをやっているんだけど、 今までになかったようなサウンドなんだ。 その点においては俺のニューアルバムも今までになかったようなものだと思うから 共通しているよ。
I:本当にそうですね。 ニューアルバムは変わる変わる、次々といろいろなサウンドに 巻き込まれていく感覚で、紫色に染まったサウンドという感じなんですが、 サイケが主流だった60年代サウンドとも言えないし、ましてやヴェルヴェッツの67年でもない。 何かに位置付けるのはとても難しい。 この21世紀にポール・ウェラーは何を作ったのでしょうか?
P:俺にとって、サイケデリックとは通常、60年代のアシッド系の影響が見られるものだと思う。 このニューアルバムにはそれがない。 イメージとしては光の中を旅している感じかな。 聴く人をカラフルな世界を引きづり込むといった感じ。
I:その感覚はこのアルバムとてもよく機能していますね。
P:サイケデリックというと、ドラッグの影響を強く受けているイメージだが、俺のは違う。 もっと色をイメージさせるものなんだ。
I:今回アルバムを作るにあたって、こういったちょっと変わったサウンドや構成にしようと はっきりと決めて作り始めたのでしょうか?
P:多少いろいろ良いアイディアがあってね。こういったサウンドにしたいみたいなのはあった。 だけど、レコーディングがはじまったら、最終的にどうなるかなんて誰も判らない。 だって、どんなサウンドから始まっても絶対に最後には全く違ったものになる。
ただ、今度のニューアルバムは最終的に自分の思い描いていたようなものにはなったかな。 エレクトロミュージックとポップスと良いメロディーを合わせたものにね。 それはうまくいったよ。良い楽曲があることも間違いない。
俺にとってははっきりと考えをもっていることは重要だな。 本当に良いポップスなんだが、実験的でエレクトリックでもあるんだよ。
I:では、アルバムごとに違ったコンセプトにしようという考えはあのでしょうか?
P:ここ最近のアルバムは特にそうだった。それは22Dreamsのあたりからだな。 俺が思うにあの時がそれまでの曲つくりから変わるべきタイミングだったんだろうな。
マンネリで曲つくりへの興味を失わないように新しいやり方を見つける必要があったんだ。 今回は特に力をいれてやったね。
自分の殻をやぶったり、何か新しいことをやってみたり、今までやっていたこととは似つかないようなことをやることは難しいことが多々あるが、俺はそれをやろうと決めているんだ。
I:曲つくりの過程は、今回は特に違ったものなんですよね。
P:普段はまず、家でピアノやギターで曲を作って、それをスタジオでアレンジしたり 肉付けしたりしていく感じかな。その時にバンドのメンバーに音程やコードを教えてね。 それが一般的なやり方だと思う。
でも、今回はそれはやらないことにしたんだ。あらかじめ、アイディアとかは考えずに、 行きあたりばったりな感じさ。 とても静かでムーディーな曲にちょっと訳の分からないバックトラックを演奏してみたりね。
その曲はどんどん即興的に曲ができてきたんだ。 とても開放的に作業が進んだよ。 一般的な作曲の仕方ができるし、それに自身もある。 と同時にここ数年は開放的に曲つくりをする方法を見つけたんだ。
I:今回は音つくりから始めたんですか?それとも小節ごとのパターンを作ることから? または全体的に決めたらから?
P:その全部はやったし、他にもいろいろ試したね。 一つの文章を書いてるみたいなこともあったかな。 ドラムのパターンと、うなりを上げているようなシンセサイザーの音から、 アイディアを浮かべて、曲を組み立てていったこともあったんだよ。
I:それはとても新しいやり方ですね。60年代のモッズカルチャーのしっかりとしたアイディアとは違って、モダニストなアイディでその殻を壊すような感じがします。
P:俺もそう思う。今までの自分の音楽のキャリアでは、そういったことはしてなかったな。
伝統的で少し古い考えややり方をしてきた。だけど最近は、それはさけているんだ。
今は現代的な哲学や信念を受け入れるようにしている。
ポップカルチャーの中の自分の場所を見つけるのは、とても難しいよ。
それはとても長い音楽の歴史でもあるし、50年にも及ぶ文化やポップスの歴史でもある。
俺たちはその歴史を知っているわけだし、多かれ少なかれ過去の出来事から
影響を受けずにはいられないんだ。その中に浸りきっているわけだから。
俺が思うに、いろんな意味で50年代や60年代の人たちは現代の人間に比べて、
簡単にパイオニアになれたんじゃないかな。
当時はカルチャーが新鮮で新しいものだったから 。
今はそのころに比べて、革新的なものになるというのは難しい。
その革新的なものになる可能性があるとすれば、個性的なものになることだと俺は思う。
なぜなら、独創的なものや前例のないことをドデカくやることに俺は惹かれる。
たとえば、ここ最近3枚のアルバムではやっていないことというのが必ずある。
そして、それを見つけたとき、俺をやる気にさせるんだ。
うぉっ!すげー!全く違くものになるぜ! ってな。
I:歳を重ねて、制作の点において、より自由に制限が少なくなったのでしょうか?
P:たぶんな。世間では、歳をとれば他人がどう思おうと気にしなくなるって言うしな。
俺もそうなってきてるよ。
病ではなく、死に関するある種の必然的な考えは歳をとるにつれて出てくるもので、
周りの人間を亡くしていくと、余計にその考えに対して、いろんな思いが疑問が浮かんできて、
そのたびにいろんなものを創造してみたいって強く思うんだ。
時間が速く過ぎるとか、残された時間が少ないというという理由は別として
可能な限り、作品を作りたいんだよ。
でも、みんなが俺が20年~30年前にリリースしたレコードについて話しているのを聴くと、
そんな長い時間、どこにいっちまったんだって気になる。
もし、この先の20年~30年もそんなに早く過ぎちまうなら、少しは急いで作品を作らないとな。ただし、金儲けのためではなくアーティストとしてね。
I:ジャムのメンバーとして音楽活動をスタートしたときに、若さや理想を掲げていましたが、
今でもそれに愛着はありますか?
P:あるね。 なぜなら、今でもあの時に”なぜ”を考え、”どう”感じていたかをはっきりと記憶しているからね。あの年代の若者だったら当たり前にもっているで、それは正しいものだったはずさ。
特に70年代後半の俺たちガキはクソ怠い最悪の環境だったからな。
自分の過去がどうだったかは今の自分に関係している。過去の自分は今の自分の性格の少なくとも一部ではあるからな。
しかし、時代やその時々での変化も必要。変わることは良いことさ。
I:あなたは今、年長の指導者といった感じでしょうか?60年代に出てきた人たちと違って、
興味深いことにパンク世代には、とても良い年長の方々がいます。ニューアルバムでも歳を重ねていくことについてことについても歌われていますが。。
P:君はその”年長の指導者になる”ということを良く知っているのかな。。だって、俺は自分を
そんなふうに考えたことはないし、そういった見方をしたこともないし。みんなが俺のことをどう言おうと、どう考えようと気にしないからな。指導者なんて、感じたこともない。
けど、若いバンドが俺のキャリアでも何からでもいいから影響を受けたとか言ってくれると、
嬉しいよね。 でも、指導者みたいな考えはないよ。
今は自分のやることだけで手いっぱい。未だに突き進んでいるんだ。ノスタルジーに浸ることはない。ほんとに忙しなく暮らしてる。全て出しつくしたってことを感じたことはないんだ。
俺はみんなが”こうあるべきだ”とか”こういうビジネスをやるべきだ”って思うことに影響されることは一切ない。そういったことは時に自分の害になる。だから、若い人の良い道しるべになったり、良い影響を与えられるくらいが良いんだと思う。
I:その”歳をとる”ということは、ニューシングル「That Dangerous Age」のテーマですよね。
P:俺にとって、この曲はミドルライフクライシス(中年期に感じる鬱や倦怠感)のくだらなさをうたった曲なんだ。そんなの世間が自分の年齢に合った振る舞いをしろみたいな決まりごとだろってね。「あの歳なのに、あんなミニスカートはいってるわ」っていうのとか、くだらないだろう。
そういったミドルライフクライシスへの固執したバカげた考えを変えたいんだ。
だから、この曲は自分のことを歌っているわけじゃないよ。
俺は30代にミドルライフクライシスにぶちあったんだ。早いうちに解決しちまったよ。
I:なるほど。この曲は素晴らしいポップソングですが、いままでのあなたの作品と比べて
全く違ったサウンドですよね?
P:君が言わんとすることは判るが、俺はそうは思わない。似たようなことを色んなひとから聞くけど、俺は自分の昔の作品の要素も感じるよ。
ジャムの『サウンド・アフェクツ』のころのスタイルが聴き取れるんだ。 ただ、曲の真ん中くらいは全く違ったものになっているけど。
周りの人と自分の意見はちょっと違うね。
俺が自分に対する見方と周りの人の見方が違うんだろうな。
I:私はデビッド・ボウイや60年代サイケの要素も少し感じますが。
P:そいつは良い!俺もそう思うんだ。
I:ボウイはかつてはモッズで、今はモダニストですね。
P:ボウイはありとあらゆることを全てやったからな。
確かに、ボウイっぽさをこの曲に感じるよ。
I:この曲もスタジオでの風変りなセッションから生まれたんですか?
P:そうだよ。ほかのアルバムの曲も同じさ。ドラムのビートとちょっと変なシンセサイザーから
始まって、そこにちょっとキンクスっぽいギターリフ、ボーカルを録って、最後のメロディーを考えて、他の部分はちょこちょこっと付け加えていった。
全体的に鳴っているバックボーカルは直感的に思いついたんだ。でも、あっという間に完成したよ。うまい具合にね。 とても自然に完成した曲だった。
I:衝動的なポップソングって感じですね。
P:そうだ。君の言いたいことは判るよ。本当にその通りだ。
I:そして、シングルで出そうってなったんですね。
P:その通りだよ。
I:アルバムには他にもいろいろな要素が見られます。マーク・ボラン(Tレックス)のようなものも私は感じました。
P:そうかな。俺はそんな風には思わなかったけど、でもTレックスは大好きだよ。
I:ストリングスの使い方ややわらかいファンクっぽさがTレックスっぽいかなと思います。
P:それはとても嬉しいね。俺は本当にTレックスが大好きなんだ。ちょうど、今朝6歳の息子を
学校に送るときに車の中で聴いてたんだよ。息子もTレックス大好きでね。
今日は「ゲット・イット・オン」をかけてたんだけど、良い曲だよね。みんな聴きすぎちゃって、
この曲の凄さを忘れちゃってるけどさ。少し間をあけてさ、聞き直してみると、なんだこの演奏はすげぇぞって驚くよ。全体のグルーヴ感が凄いんだよね。
マーク・ボランは天才的なギタリストだったんだよね。それを今朝気付いたんだけど。
そうだな。君が言ったファンクっぽさも感じる。でも、それとは別のノリもあるんだよな。
息子は何度も繰り返し聞くんだ。曲の最後にちょっとだけギターソロがあるんだけど、
そこがツボみたいなんだ。息子のお気に入りナンバー1だね。
I:ニューアルバムの楽曲は、深い内容になっていますね。内省的な葛藤や情熱を持っている
人物がテーマだったり、When Your Garden’s Overgrownは死について歌っていますね。。
P:その曲を書いているときは、自分が何を考えていたかははっきりとは覚えてないけど、
半分、何かを考えながら、 半分はシド・バレットについて考えていたかな。
シド・バレットもとても大好きさ。時々、考えるんだよね。シド・バレットの人生が全く違ったものだったら、バンドにも入らず、絵にも一切興味がなかったらってね。
俺が読んだ本によると、彼はなりたかったものになれたみたいなんだ。
で、When Your~はシドがとても幸せに画家になってヨーロッパをうろついているのを想像して書いてみたんだ。「自分の庭が荒れているのを知っているかい?」っていうコーラス部分は、
避けられない運命や不幸な状況から抜け出すべき時、その状況を変えようとするときのような
「再生」を歌った曲だね。
I:シドは究極の変化をしましたよね。とても輝かしいポップシーンのスターからセミリタイアして、ケンブリッジでひっそりと暮らしていました。そのことがジミー・ヘンドリクスのように早く亡くなるのをさけたんでしょうが、遅すぎた気もします。
P:家族のことを考えると、とても悲しいことだね。彼の精神状態が崩壊していくのを
見続けていた家族はとても悲しいかっただろうし、辛かっただろう。
I:ニューアルバムにはクラフトロック(60年代ドイツで生まれた実験的音楽)のモトリックビートを
使ったを3曲がありますね。その実験はとても機能しています。その中のひとつKling I Klangは
ニューアルバムの中の最高傑作のひとつで、クラフトワークの楽曲から名前をとっていますね。
P:実際はクラフトワークの曲から直接とったんじゃないんだ。実はNMEの記者がアイディアをくれたんだよ。最初のタイトルは「song song wrong」だったんだけど、聞き間違えて「Kling I Klang」って言ったんだよ。それを聞いて、良い響きじゃん!それ使えるぜって思って
タイトルにしたんだ。
結果的に、後からクラフトワークのものだって判ったんだ。だから、最初は知らなかったんだ。
ニューアルバムには確かにクラフトロックの影響はあるんだけど。クラフトロックっていう響きは好きじゃないな。70’sジャーマンアンダーグラウンドって呼ぼう。
いくつかの曲はその影響を受けているね。 だけど、Kling I KlangよりもGreenとかAround The Lakeの方がもっと顕著に聴くことができるよ。モトリックビートもうまく使えているよ。
Nueとかクラフトワークっぽさも感じるね。昔、DJセットをやってたときによくかけててね。
モトリックビートをいつか自分の曲でもやってみたいって思ってたんだ。
I:それとプログレッシブの要素も若干感じ取れます。ほんの少しだけ、60年代サイケと
70年代プログレフォークの間みたいな。
P:確かにそうだな。影響はあったと思う。そんなに意識してはいないけどな。
俺はそのころの音楽はあんまり聞いてないんだ。前にもいったけど、当時は
その頃の音楽が本当に嫌いだったんだ。
今は自分が気に入ったものは良く聞く。だから、多少の影響はあるんだと思う。
最近はその頃のサウンドを集めたコンピレーションCDがリリースされてるんだけど、
俺のお気に入りさ。だから、確かにそういったとこからの影響なんだな。
いずれにせよ、潜在意識の中だね。意図的ではない。
I:ニューアルバムはあなた自身の”変化”は影響しているのでしょうか?
双子が生まれて、禁酒もしていますよね。
あの泥酔事件(酔ったウェラーと当時恋人だった現夫人が酔っ払って路上で寝ている写真をタブロイドに取られた)ことがターニングポイントだったという報道もありますが・・
P:ある意味そうかもな。でも、あの事件はただ俺が泥酔して路上に倒れちまったところを
誰かが携帯のカメラで撮って売りやがったんだ。俺は14歳のころから路上で寝転がっちまうほど酔っ払っていたからな。俺としては大したことじゃなかった。
でも、他人には大した出来事だったんだ。俺たちの子供にとってもな。
子供に「冷静になりなよ」って言われちまったし。
まるで、誰もあんなことをやったことがないように騒がれたよ。
そんなことも経験してねぇなら、やってみるべきだよ(笑)
だけど、妻は変わった。だから俺も酒は辞めた。ほんとにその事件とは関係ないんだ。
1年半くらい前に、そろそろ辞めるべき時が来たなって思ってな。
俺がいつから酒を呑んでたかなんて、神のみぞ知るって感じさ。おそらくガキのころからさ。
そう考えると、長生きするためなら、それは辞めるのにとてもいい理由だと思ったんだ。
まぁ、恥ずべきことだが、時々、呑んだら味わえる狂気やバカ騒ぎを懐かしく思うこともあるが、 毎朝、しらふですっきりと正常な頭で目覚める方が好きになったよ。
今は健康体だよ。不満もない。それはとても大きな転機だったな。
I:クリエイティブな面では何か変化はありましたか?呑んでいないと何か大切なものが失われるそうな不安はないですか?
P:辞めた直後は、楽曲制作が難しくなるかもと考えたよ。だけど、そういったことはなかった。
アルコールなしだと、制作意欲がなくなるかなとも思ったけど、ほんとに何にも違わなかった。
それはこのアルバムが何よりの証拠だよ。
I:本当ですよね。このアルバムはクリエイティブな発想が一気に花開いたというか。
おそらくアルコールが今までそれを制御していたんではないでしょうか?
それが今、一気に爆発したんですね。
P:そうなのかもな。アルコールなしの期間の自分がどういう状況か考えたことはないけど。
君みたいな人がいろいろ聞いてきて、自分のことがよく判るというか。
まぁ、今言えることは、とてもクリエイティブな時間を過ごしている。同時にやらなければならない義務のようなものも、音楽の中に感じている。
だけど、俺がこうあるべきだとか、他人が言う君はどうするべきだといったことには、一切左右されるつもりはない。
真っ白なキャンバスがあるだけさ。どんなルールブックにも左右されず、自分のやりたいようにやる。それが飾らない俺のやり方さ。
————————————————–ここまで です。———————————————–